初心者クライマー。
出国265日目。
26カ国目のタンザニアのキリマンジャロにいます。
キリマンジャロ。5985m。
アフリカ大陸最高峰。
山脈に属さない独立峰としては世界一の高さの山。
ほんとは費用の関係でスルーしようとしてたんやけど、
なんとなく近づくにつれて、登りたくなってきて。
僕は特に山が好きな訳でもないし、
富士山くらいしかのぼったことないんじゃないかくらいの初心者クライマーねんけど。
1週間もかけてまで、1000$も払ってまで、登るのってどうなんやろって思いながら
ふらふらと、特に誰に誘われた訳でもなく、1人でキリマンジャロの麓の町モシについて。
追い風も向かい風も吹かないまま、どっちか吹いてくれた方が決めやすいねんけどな、
なんて考えてる時点で、きっと登るのは決まってたんやけど。
結論から言うと、これがほんまにすごかった。
ほんまに登ってよかった。
ちなみに、僕が登ったのはマチャメルートっていうルートで
6日かかるけど、いろんな景色見れるし、登りと下りが違う道、みたいなそんなルート。
興味ある人はこちらのページを。
とりあえず感想ばーって書く。書きたいこといっぱい。
はじめの4日間は、ゆるっとした登山ではじまりはじまり。
高度もそんなに高くないし、一日あたりの距離もそんなに長くなくて。
なんや、キリマンジャロ余裕なんじゃないかな、なんて思ってて。
まあ5日目の早朝にその思惑は粉々にされるねんけど。
ゆるりとハイキング感覚で登りながら、
結局なんでキリマンジャロ登ることにしたんやったっけって考えてて。
大陸最高峰って響きが素敵すぎるからかなーとか、
「こないだキリマンジャロ登ってんけどさー、」で始まる会話とかモテそうやからかなーとか、
クリスマス近づいてきて何かから逃げたくなったからかなーとか。
まー、きっと全部なんやろなーなんて思いながら、わくわくと。
そんな4日間。
泊まるのはテント。
僕がキャンプサイトに着くことにはもうテントできあがっててコーヒーまで用意されてる。
なにこの待遇のよさ。
4日目はキャンプ地に15時くらいについて。
これから登ってく山をみたり、ウクレレ弾いたり、夕日みたりのご機嫌な時間をすごして。
夕食時に、登頂アタックの説明。
・0時に起きて、30分くらいで準備して出発ね。
・靴下3枚履き、服もいっぱい着ないと寒さにやられるよ。
・ウクレレ持っていってもいいけど、きっと手がかじかんで弾けないよ。
みたいな感じやったかな。
ウクレレのとこで一悶着あったけど、こういうとき、僕頑固やなーって思う。もちろん持ってく。
で、とりあえず4時間くらい仮眠をとって、いざ山頂へ。
こういうとき、どこでもいつでも寝れる僕便利やなーって思う。ほんまにぐっすり。
いよいよ。
ここからの6時間くらいが、これまでで一番心が揺れた。
思ったこと全部書く。
a.m.0:30
キャンプ地をスタート。4640m。
ぐっすり寝たし、月もめっちゃきれいやし、気持ちよくスタート。
しばらくは夜の雪山登山のきれいさにびっくりしてた。
単色が描く虹色を見てるようなな、白黒のはずやのに、すごいすごいきれいな景色。
a.m.2:00
高度を確認したら、5100mくらい。
確かにこれまでの4日と比べるとしんどいけど、まだいける。
そういえば朝日って何時くらいやっけ、って気になってガイドのスティーブに確認。
6:20くらいかなって回答に、山頂で日の出が見たいからそれに間に合うペースで行きたい、
みたいな注文ができるくらいには、余裕があった。
a.m.3:00
5300mくらいやったかな。もうこの辺から、けっこうしんどくて。
寒さとか疲れに加えて頭も痛くなってきて。
なんでこんなにしんどいんやろーって考えてて、
やっぱりなんだかんだ疲れが貯まってるんかなーとか、
この高度でこの運動量やからかなーとか、
クリスマスが近づいてるからかなーとか。
まー今回も全部答えなんやろなーなんて思いながら。
気づけば「あー、しんどいー」って声に出して言ってて、
なに弱音はいてんねんって思うと同時くらいに
もう1人の僕が、「負けるか、ぼけー」って声も出してて。
言葉遣いは悪くても、僕は後者の自分をめっちゃ応援してた。
a.m.4:00
5450mくらい。
いよいよしんどい。
どう考えても頭痛いし、一歩一歩が苦しいし、次の一歩に集中してないと倒れそうになるくらい。
なんかもういいやーって意識が勝手にログオフしそうになるのを、必死で繋ぎ止めるそんな時間。
ほんまに諦めよかなって2000回は思ったし、なんならなんて言い訳しようか考えてたくらい。
もうここでいいか、って。朝日はここから見れたらいいや、まーほぼ山頂やし、って。
そんなこと考えながらいると、前から突然。
「Don’t give up.」
とガイドのスティーブ。
諦めようとしてるのばれてるん恥ずかしって思いながらも、
その言葉で少し元気に。
閉じかけてた目がなんとか開く。
そやんなー、ここまできて何諦めようとしてんねん、って。
言葉ってすごい。でも、まーしんどい。
a.m.5:00
5600mくらい。
本格的に苦しい。
もうほんっとにふらふらになりながら、
そういやなんで登ってるんやっけってまた思って、
なんか力にならんかなーって昨日まで考えてたことを思い出そうとしたときに、
もう1人の僕が、「知らんがな!」って言い放って。
お、そっか。ってなった。
知らんよなー、って。
もうここまで来て何をいまさらやんなーって。
もちろん、初心を忘れないことが大切ですとか、足元を見てないとつまづくとか、
そういうのはすっごいわかるけど、
必死に次の一歩を出そうとしながらの「知らんがな!」ってなんかすごくいいなって思った。
a.m.5:20
スティーブが立ち止まる。
指をさしてる。
その方向に目をやると。どん。
ステラポイントの看板。
山頂のウフルピークの手前にあるポイント。5739m。
ここまでくればあと45分だよ。と、スティーブ。
ゴールが見えれば頑張れるタイプの僕はここでようやくまわりの景色が見えるようになって。
後ろを振り向くと雪の上に残る足跡と色が変わりはじめている空。
ここからの景色がすごい。
月はまだめっちゃきれいやのに、地平線は完全に色づいてて。
徐々に白黒の世界に色が落ちてきて、きらきらと雪が光る。
さっきまでの暗闇が、苦しみが、嘘やったかのような時間の流れ。
「きっと嵐って、朝日が、そのあとにのぼってくるためだけに、あるんじゃないかなあ。」
っていうムーミンパパの言葉がようやく腑に落ちたような、そんな瞬間。
ふと前をみると、ウフルピークの看板。
気づいたらうるうるしてた。
なんでやろ、って考えてて、
やっとこの苦しさから解放されるからかなーとか、
景色がこれまでみたことないくらいきれいやからかなーとか、
クリスマスがまた少し近づいたからかなーとか、
いろいろ思ったけど、知らんがな、ってことにしといた。
きっと全部あってるし、全部それだけじゃ答えになれない。
僕はここまで登ってこれて、泣きそうになっている。
それだけ。理由なんていらない。
僕がこれまで29年でどれだけの距離を歩いたかはわからないけど、
ウフルピークに到達するまでの最後の100mが、これまでで一番心が震える100mやった。
1秒でもはやく辿り着きたい高揚感に背中を押され、
1秒でもながくここを歩き続けたい陶酔感に肩をつかまれていた。
a.m.6:08
山頂へ。5895m。
もうその瞬間に疲れとか頭痛とか寒さとかはなくなってて、
その時はそのことにすら気づいてなかったんやけど、
スティーブとふたりではしゃぎまくって。
ハイタッチもめっちゃして、7回目くらいかな、そんくらいに、
いやハイタッチばっかしてる場合じゃない、ってなって写真撮って。ウクレレ弾いて。
振り返ると、太陽が昇り始めていて。
続々と登ってくるひとの笑顔、歓声。
周りには氷河。それを照らす朝日。
なにここ、すごい。
こんな景色みたことないし、こんな感情味わったことない。
ここウフルピークの、ウフルってのは自由っていう意味で。
なんかそれもすごくいいなって思った。
自由、ここにあったんか。
どんだけ不自由なとこにあんねん、自由。
なんにせよ。
ほんとに登ってよかった。
これまでで一番しんどかったし、
たぶんこれまでで一番諦めようと思った。
でも辿り着いた時の感情は、これまでで一番揺れた。
あー山が好きって、こういうことか、ってのが、
ようやく、ちょっとわかったかもしれない、そんな初心者クライマー。
楽しかった。
ほんまに、登ってよかった。