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小さな湖畔の町で考えた、住むということ。
3年間の世界一周で、なんて面白い世界があるんだろうと思った。
全てが美しくなくても、みんなが優しいわけじゃなくても、
この世界に美しい場所があること、あの時出会ったあの人が優しかったことが、
この世界を生きていくのに、十分すぎる理由になることに気づいた。
あれから10年。
今回はいろんな国を巡る旅行ではなく、ひとつの場所に住んでみたいと思い、
これまで訪れた町の中で一番心惹かれた、ニュージーランドのワナカを選んだ。
何も決めずに到着した小さな湖畔の町で、住む場所を探し、車を買い、
少しずつ暮らしを作り上げていく毎日がはじまった。
湖のそばを散歩して、太陽を浴びながら本を読んで、どこで夕日を見るかを迷って。
季節の移り変わりを楽しむゆるやかな生活は、とても心地よかった。
帰国を前にワナカの町を歩いていて気がついたことがある。
それは、この町のあちこちに、思い出が染み込んでいるということだ。
湖のほとりで友達と食べたクロワッサンの味。
駐車場で携帯を落としてひび割れた時の絶望感。
学校の軒先で見た雨上がりの夕日の美しさ。
家のテラスでオーナーさんと飲んだコーヒーの温もり。
誰か待ち合わせた時間、偶然声をかけられた瞬間。
本を開いた午後や、草原でうたた寝をした日。
嬉しい気持ちで歩いた道も、沈んだ気持ちで眺めた景色も。
この町で過ごしたすべての時間や場所に、僕の思い出が宿っている。
それは、ゆっくりと日々を積み重ねる中でしか形づくることのできない記憶の風景だと思う。
「住む」ということ。
それは、ただどこで暮らすのか、ということだけではなく、
自分自身の物語をどの場所に残していくのかということなのではないだろうか。
そして、それは同時に、
その場所に流れる空気で自分の人生をどのように満たしていくのか、
ということでもあると思う。
今回ワナカに住んでよかったと思うのは、
湖沿いに溢れる活気も、緑の芝生に吹く風も、朝の優しい光も、
確かに自分の人生に流れ込んできたと感じるからだ。
自分が町に物語を宿すとき、町の物語もまた自分に宿される。
お互いの物語を交換するように、一つの物語になっていく。
だから僕の中には、いつまでもこの町の景色がある。
この町に住んで、たくさんの人と出会った。
みんなとても親切で、魅力的な人ばかりだった。
それぞれがどんな日々を歩んできたのかはあまり知らなくても、
目の前にいるその人がいい人だということは間違いなくて、
きっと素敵な人生を生きてきたんだろうなと思えた。
そんな人たちと一緒にご飯を食べたり、お酒を飲んだり、焚き火を囲んだりしながら、
一緒の時間を過ごすのはとても幸せで、居心地が良かった。
結局、人は人生によって作られる。
見てきた景色や、共に過ごした人、積み重ねてきた時間が、
ふとした言葉に、話しかける声に、眼差しや仕草にあらわれる。
覚えた言葉でしか語れないし、知らない不安は抱けない。
互いの人生が交わり、そこで生まれる会話や沈黙の中に、
これまでの物語は知らず知らずのうちに浮かび上がる。
今の僕はどんな景色を映しているのだろう。
これからの僕を満たしていくのは、どんな風や気配だろう。
ワナカでの忘れたくない日々があるということ。
それをいつか忘れてしまうかもしれないくらいに日々は続くということ。
こんなに恵まれた今はないと思う。
どこまでいっても物足りなくて、いつも誰かは羨ましくて。
それでも続いていく人生に、どんな景色を宿していくのか。
会いたい人は増えていき、伝えたい話が溢れていく。
それゆえ続いていく人生を、どんな言葉で語っていくのか。
次はどこに住むことにしよう。
湖畔の風は、これからも僕の中に吹き続けていく。









